さかつくの雑記

感想記事は途中からネタバレ入ります

千の刃濤、桃花染の皇姫(千桃) 感想

ゲーム中に別の作品を連想してしまう人、さかつくです。

 

オーガストの千の刃濤、桃花染の皇姫(以下、千桃)をプレイしたので感想を書いていきます。

160923 (5)

 

オーガスト作品をプレイするのは、夜明け前より瑠璃色な穢翼のユースティアに続き3作品目です。特に後者は世界観が好きだったので、千桃にも期待していました。

 

プレイ後の簡単な感想としては、非常にオススメのできる作品でした。

世界観の良さも期待通りで、非日常を味わうことができました。ストーリーの流れも、盛り上げるだけ盛り上げて落とす、なんてことはなく着地までしっかり魅せてくれました。

あとは良いCGが多かったですね。演出にも驚きました。爆発はするわ銃器は動くわで臨場感があります。

一つ残念な点は、メインヒロインのテキストアイコンの腕の部分に点滅する線が入ってたことです。修正パッチも見当たりませんでした。

 

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 OPがすごく良いの是非聞いてください。

 

さて、世界観の説明に入ります。

舞台は、神秘が残っていた場合の現代といったイメージでしょうか。ビルが立ち並び、国民がタブレットを持っていたりしますが、呪術が実在するため、歴史で触れるような信仰の在り方も併せ持っています。

 

舞台のモデルは、タイトルに「桃」の文字が入り、作中でも重要な花であることや、地名などから中国かと最初は思いましたが、がっつり日本がモデルでした。

 

舞台となる国は、共和国という別の国に侵略され、帝政を維持したまま、間接統治を受けることとなります。領事裁判権もなく、武装した共和国軍が多数駐留し、やりたい放題やってます。

 

国の名前は豊葦原水籬内皇国。これは読めないですね。

読みは、とよあしはらのみずがきのうちのすめらみことのくに。復活の呪文です。

略して、皇国(こうこく)。帝政で成り立つ国です。

 

繰り返しになりますが、神秘が残っているというのは、皇国が呪術という力を保有していることを指します。この呪術は大御神という神様がもたらす奇跡であり、皇国民は大御神と大御神から皇国を授かったとされる皇帝を心の底から信仰しています。

 

そして主人公は武人という立場です。武人というのは呪力の加護を受けた戦士のことで、皇家に仕え皇国を守る使命があります。が、共和国との戦争に負けたことが原因で、武人は国民から戦犯扱いをされています。

 

説明不足感が否めませんが、世界観の説明はこれぐらいにしておきます。

 

あらすじを簡単に説明すると、

共和国との戦争から3年、戦時中の怪我で記憶を失った主人公は、自分の忠義の対象を見失っていた。武人達は皇国再興のために活動をしているが、主人公は戦うことに義務感はあっても情熱的になれず、手足を繋がれているかのような鬱屈とした気分で日々を過ごす。ある日、主のために命懸けで戦場を駆け抜けたいと願う主人公の前に、自らを皇家唯一の生き残りと呼ぶ少女が現れる。

こんなところでしょう。

この世界観に惹かれる方は是非プレイしてみてください。

 

ヒロイン紹介もしておきます。

・宮国朱璃 メインヒロイン。先代皇帝の一人娘。戦争時に皇国を裏切った小此木絶対殺すマン。

 

・鴇田奏海 真のメインヒロイン。とにかく可愛い。主人公の義妹。現皇帝を騙る不敬者。兄が大好き。あと可愛い。このシーンは主人公との初回遭遇シーンですが、すっごく可愛いのでプレイしてほしいです。

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 ・椎葉古杜音 斎巫女と呼ばれる、神殿組織の長。信仰と呪術関連の偉い人という認識でとりあえず良いと思います。好きなCGなので置いときます。茶髪の方です。

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・稲生滸 武人の名家に生まれ、武人の組織の会長代理をしています。幼馴染キャラ。

 

・エルザ ヴァレンタイン 共和国総督の娘。軍で上級大佐の地位に立ち、皇国の治安維持を担当している。生徒会長も務めています。

 

このヒロイン達はみんな同じ学校に通っています。なんだって

ちなみに学園メインの話ではないですよ。

 

 

それでは張り切って感想に入っていきます。ここからネタバレありです。

書きたいこと書き出してたら、箇条書きでも7500字を越えてたので震えています。涙を飲んで絞っていきます。というかめんどくさくてまとめられない。

 

 

以下、ネタバレ。

 

・構成

千桃の構成は、以前書いた記事でいう大樹型に当たります。朱璃√がメインストーリーです。下記はそのリンク。

エロゲの分岐について - さかつくの雑記

 

 

・主と臣下

千桃の大きなテーマの1つですね。「武人には武人の、主には主の戦いがある」

武人は戦場で命を張る。主は自らの運命を臣下に託し、最後まで見守る。

滸戦を経た後の朱璃は、主としての風格があり格好よかったです。朱璃は臣下の働きを助けるのではなく、信じて任せることを選びました。

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遡りますが、朱璃と滸の初回遭遇シーンも良かったですね。皇女の証明を持たない朱璃とそれを信じる宗仁、対して翡翠帝を信じて疑わない滸。忠義に篤い武人である彼らは相容れません。証明がないと言った瞬間、滸が一閃。宗仁がこれを防ぎますが、朱璃は一切動じず。このシーンの緊張感はたまりません。

 

 

・宗仁

朴訥な主人公でした。そもそもミツルギとして作られたんだから当たり前なんだけど。

記憶を失ったから人間としての側面が強くなったってのはよくわかりませんけどね。記憶を失った原因が外傷ってのはちょっと残念でした。封印されたとかいろいろ予想したのが裏切られましたね。

 

序盤で滸の好意に気づいてるというテキストがありました。

鈍感じゃない主人公(゚∀゚)キタコレ!!と思った時代もありました。この幻想はあっけなく崩れ落ちることになります。

主人公は鈍感じゃない方が良いと思うのです。特に強い主人公の場合は。

洞察力に優れているキャラが恋愛にだけ鈍感だと、急に人間味が薄れてくるんですよね。宗仁はモノとして作られてるからしょうがないですけど。

 

 

・滸の話

千桃は組織内の派閥争いだとか、仲間内で思惑が渦巻いている様子が上手いですね。

小此木とエルザの帝宮の警護の管轄争いは政治的な争いで良かったですね。

 

同様に奉刀会も全然1枚岩じゃありません。稲生と槇の小競り合いが見ていても面倒くさいぐらいです。呪装刀が奪われた時、刻庵の存命の知らせも加わり会は分裂寸前でした。

いつまでも会長として奉刀会を引っ張ろうとしない滸に、副会長の槇が「色恋にうつつ抜かしてンじゃねぇ」と一喝します。

大変同意ですね。シリアスものなのに不必要に恋情に絆されるキャラは見ててうざったいです。

 

滸の過去回想は良かったですね。3年前の共和国との戦争中のシーンです。

滸は明義隊の隊長を務めていました。それは未だ戦場に立ったことのないお遊びの小隊。

初めての戦場に抱いたのは期待と興奮、自分たちこそが武勲を上げるのだと。その若さ故の感情は一瞬で打ち砕かれることになります。

いざ戦場に立てば狂気に理性を奪われ、悲劇に酔いながら死への突撃を敢行しました。

自らをかばった仲間が一瞬に肉塊に。顔にかかった仲間の脳漿を片手で払い、前進していきます。生き残った仲間と泣きながら笑う、強がりに強がらないと狂気に飲まれた若造は立ってることさえできない地獄。

そして気が付けば、負傷した自分を責めるように、隊員が自分を取り囲んで立っていました。”それら”には腕がなく、脚がなく、頭がない。何故撤退しなかったのか。何故こんなことに。名義隊だったものは、滸に"何故"と呪いをかけ、滸だけを残し全滅しました。

滸が会長になろうとしない理由はそこにあったのです。

 

滸は後に引けない状況に追い込まれ、槇との決闘を受けることになります。

稲生家の当主の証たる不知火を抜くために、自責という甘美な逃避に溺れる自分を切り伏せます。このシーン良いですね。

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ここから滸の戦闘が、不知火!と叫び炎を出すだけのものになってしまうのは残念です。序盤の鍛錬での宗仁との打ち合いとか好きだったのですが。

 

この後、共和国軍に強襲され、槇が囮になります。

これは槇死んだわ。絶対死んだ。って生きてるぅぅぅぅぅ!!

 

 

・エルザと忠義

エルザの話はこれに尽きると言っても過言ではないと思います。千桃の中で1,2を争うぐらいに好きなところです。

 

朱璃の初回登校時、授業の議論時間でエルザと口論をします。この授業は共和国の侵略の正当性を説く授業ですが、朱璃が真っ向から反論をし、次第に皮肉合戦になっていきます。

 

エルザ)皇国の帝政は独裁であるから、民主主義を導入し、独裁から解放しようとする共和国は正しい

朱璃)皇帝は大御神から皇国を授かっているのだから正統

エルザ)神話を作り支配者の正当性を説くのは洗脳

朱璃)この授業も洗脳以外の何物でもない

 

まあこんな感じです。

これを機に朱璃はエルザに目を付けられ、一緒にいる宗仁も含め、今後の話合いに発展していきます。

 

ある日、エルザは宗仁たちに忠義とは何かを尋ねます。

「忠義とは、主君に対して絶対服従を誓うものだと思うのだけれど、死ねと言われれば死ぬのかしら」

これに対して、滸はそうだと答え、宗仁はそうとは思わないと答えます。

武人として陛下のために死ぬ、死に方にも美学があるとする滸。

皇国のために最後まで戦うべき、格好よく死ぬために戦うのではないとする宗仁。

 

よくある忠義の問答に「主が間違ったことをしているとき、これに従うか、諫めるか」というものがあるといいます。宗仁の考えはもちろん後者で、主の不明を正すのも臣下の務めと考えています。

 

忠義の在り方は人によって異なるという回答に不満げな様子で、エルザはその場を後にします。

 

その後宗仁は作戦中(正確には違うけど)にエルザと対峙します。この時点で宗仁が反乱分子であることがバレますが、戦闘を制した宗仁は、エルザを見逃します。

エルザはその理由を綺麗事と一蹴します。

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これに対し宗仁は、

「自分の心が、どこまで血と泥にまみれず在り続けられるのか、武人という生き物は昔からそういう下らないものを守るために戦っている」

この発言を受けてエルザは再び忠義の在り方に関心を持ちます。

 

というのも、エルザは共和国の侵略に反感を持っているからです。

共和国軍の総督であり、エルザの父親のウォーレンは戦争を金と地位のための道具としか考えていません。新兵器の実験を進んで行ったり、弾薬を消費するために不必要な空爆を行う、そして舞い込む莫大な金を政治家にばら撒く人物です。

 

幼い頃エルザは理想主義で、共和国は本当に世界を解放するために戦っていると信じていました。しかし、少女はいつまでも少女のままではいられません。自らを形成する全てが血に汚れていると知ってしまいます。体に流れる汚いものを全て吐き出すかのように三日三晩吐き続けました。

そのため、エルザは敢えて方便として民主主義を掲げます。偽りの民主主義国家に渋い顔をさせたい、そんな小さな仕返しを胸に秘めています。

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事実、武人の無差別な殺害を防いでるのはエルザの思想にありました。

 

しばらくして、また忠義の問答が始まります。

エルザは間違っている命令に対してどうするかという問いに、迷いながらも諫めると答えました。

そんなエルザに宗仁は「忠義の意味は人によって違うが、自分の忠義に命がけ問いかけを続けなければならない」と言います。

 

また、別日の会話ですが、武人の在り方は囚人の哲学ではないかとエルザは言います。武人の在り方は不自由だと、自由は人間の最低限の権利であると。

この問答には関係ありませんが、睦さんが奉刀会を抜けた理由はここにあります。武人も自由に生きていいのだと。

 

話を戻します。武人が忠義のために迷いを心から消そうとすることに対しての会話です。

 

エルザ)権力者からすれば兵士は戦う機械であったほうがいい。長い歴史の中でそう仕向けられ、その上幸せと感じるように誘導された。

宗仁)そうだとしても、戦場で迷いがある方が不幸だと思う。人が命をかけてぶつかり合う戦場で何のために戦うのかわからない。それは何のために死ぬのかがわからないということだ。君は軍人として迷いなく戦えているか?

エルザ)私は...…迷いはない。私は圧政に苦しむ人々を解放するために戦っている。
どう思う?

宗仁)迷いなく戦場に立てているなら、幸福だと思う。個人の覚悟は個人の中にしかない。ただ俺は敵であろうが味方であろうが、迷いなく戦っている人間は尊敬できると思う。

 

これはエルザに刺さりますね。まだエルザは答えを出せていないのですから。

宗仁の在り方は格好いいですね。良主人公です。エルザが憧れ、鴇田くんのようになりたいとつい口を溢してしまうのも納得です。

 

そしてエルザは自分なりの忠義の意味を理解します。

それは「いつ何時でも自分の心に嘘偽りなく向き合うと決めたもの」

ここまで来ると僕らでも理解しやすい言葉になりましたね。

 

竜胆作戦の決起前日、エルザが見つけた忠義の対象を宗仁に伝えます。

「自分の中の最低限の高潔さ」

エルザはこれを守り通すために戦うことを決心しました。その瞳にもう迷いはないようです。

 

そして決起当日、夜鴉町に向かうエルザの判断こそがこの忠義問答の意味であったように思います。これについては次の項目で書きます。

 

忠義はそもそも武人の思想でありましたが、エルザを大きく成長させるものでした。

この世界観で学園が必要だった理由はこの忠義の話にあると思います。共和国の軍人が忠義の意味を知ろうとして、それを体現する武人に話を聞くということは、あくまでも学びの場としての学園でなければできないことでしょうから。

 

余談ではありますが、ウォーレンとの決別シーンも好きです。

ウォーレン)高潔な生き方など、ただの自己満足だ。泥にまみれた連中を動かすには、自分も汚れなくてはならない。

エルザ)端から見れば、汚れた人間が一人増えただけのことです。

 

エルザにとってウォーレンは権力の象徴ですからね。これを乗り越えたことは大きな成長でしょう。

 

さらに余談ですが、ウォーレンの考え方も好きです。

「共和国の拡大戦略は間もなく頓挫する、自分たちが領土を拡大するのは統治に金がかかるためだ。だから他人の戦争に手を出すことを選んだ。これから戦争はするものではなく、させるものになる。」

ウォーレンさんは「戦争農場」を作るのだと意気込んでました。

ただ、そのために人心を操る呪装兵器を作らせようとしているけども、そんなものあったら戦争しないでも世界が思い通りになると思うんですよね。

 

 

 ・新生生徒会発足、竜胆作戦

 前の項目と同じく千桃で1,2を争うほど好きなシーンです。

前提として奏海の話もします。

小此木の思惑で奏海は登校することになります。奏海の初登校シーンは笑いました。

奏海が校門から生徒に向かって手を振ります。

 

滸)さすが本物の陛下

宗仁)ああ

朱璃)ああじゃないわよ裏切り者!

 

奏海と宗仁は目が合います

 

宗仁)目があった

朱璃)あのね、そうゆうテクニックだって

宗仁)間違いない

朱璃)目があってよかったじゃない!!宗仁のバーカ!!!

 

楽しい。

 

正体に気づいて欲しい奏海は宗仁にアピールをしていくことになります。

「私が何の花を好むか知っていますか?」

この質問は良かったですね、翡翠帝として自然な質問。そして勿忘草を注文します。花言葉は「私を忘れないで」「真実の愛」。

もとから勿忘草が好きだったのか、気づいていないからこれを頼んだのかは不明。後者だと嬉しい。とても嬉しい。

 

さて、エルザは奏海に入れ知恵をして、小此木討伐計画を立てます。ちょろいぞ奏海ちゃん。

そして、宗仁と滸に計画の協力を依頼します。

小此木を倒して民主主義を導入したい。ただしそれは皇国民の手で行われるべきだ。そのためには軍事的、政治的な支援も厭わない、といった内容。

翡翠帝が民主主義を導入したいと言ったことから、翡翠帝がエルザの操り人形と思う2人。エルザの思惑が掴めないが、呪装刀の返還を条件に計画への加担を承諾。

 

とはいえ、奉刀会の大目標は小此木から翡翠帝を奪還し臨時政権を樹立、その後有志に呼び掛け独立運動を促し、共和国と交渉の席に立つこと。小此木を倒すまでは一致しているが、帝政の廃止は望んでいません。ましてやエルザが裏切らない保証はどこにもなく、その場合全滅は必至です。

つまり、裏切る気満々です。

対してエルザも、2人の予想通り、危険思想の武人の一掃が目的なので裏切る気満々。

 

この4人に加え、朱璃と古杜音と柴乃を加えて新生生徒会を結成。作戦のために集まりやすくしました。学園といったら生徒会ですよね。青春の香りがします。

そして奏海たっての希望で、宗仁は奏海の護衛を任されます。

 

新生生徒会できたけど今までの役員どうしたんでしょうか。会長以外全員皇国人だと共和国人から反感を買いそうな気もします。

 

小此木討伐の作戦名は「竜胆作戦」と奏海が名付けました。鴇田家の家紋は竜胆車。加えて、武人の所作を見せつけてきます。気付いてアピールがすごい。可愛い。

 

アピールの甲斐もあり、宗仁たちは正体に気づきます。そして確信を持ったと見るや否や奏海は自分が偽物の皇帝であることを明かします。ここまであっけないと確信を持つ前に打ち明けても良かったのではないかと思わないでもありません。

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 可愛いから許す。

 

時代背景、思想の厳しさを表すのが次の場面です。

宗仁は、皇帝を騙ったことをどう考えているかを尋ねます。この意図は、不敬罪を働いた罰として死を受け入れるつもりはあるか、という冷酷なものです。

奏海は宗仁と再会するためだけに皇帝を騙る決心をしたのにも関わらずです。実際、奏海も承知の上でした。武人の忠誠の在り方が詰まっているように思います。

 

エルザの操り人形かと思われた奏海ですが、譲れないものがあるキャラでした。千桃のキャラはみんな芯が通ってていいですね。

竜胆作戦において、民主主義を導入したいと初めに言ったのはエルザではなく、奏海だったのです。何故なら奏海は皇帝という制度を憎んでいるからです。

 

ここまでプレイヤーはこの2つの立場から皇帝について見ていました。朱璃の主の立場と宗仁や滸の臣下の立場です。ここに奏海の武人の家族の立場という第3の視点が入ります。

 

奏海から見れば、皇帝は戦時中何もしなかった支配者であり、帝政は小此木に独裁を許す原因。その上、武人は果敢に戦ったのにも関わらず、武人の魂である呪装刀は奪われ、国民からは戦犯扱い。だから皇国を腐敗させた帝政を廃止したいというものです。

 

そして奏海は朱璃に、そして皇家に理にかなった否を叩きつけます。

 

生きていたのならどうして今まで何もしなかったのか、武人は皇国と陛下を守るために戦った、戦後も奉刀会は戦っていた。それなのに皇家は何故武人のために何もしてくれないのか、あなたが遅いからみんな死んでしまった。

 

武人と違い武人の家族は笑顔で送り出し無事を祈ることしかできない、だからこその憤り。何のために家族は命を投げ出したのかと。

 

これに対して朱璃は言い訳をしませんでした。朱璃にもどうしようもなかったのに。朱璃も必死で3年を過ごしてきたのに。そして皇家として国を守る覚悟を伝えます。

これに向き合おうとする朱璃は良いキャラしてますね。とことん皇帝してます。

 

皇家の決意を目の当たりにした奏海は、3つの条件を受け入れることを条件に宗仁側につくことを決めます。

まずは、エルザの命の保証。次に、民主化と帝政の存続を国民に委ねること。

そして3つ目。

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自分が死ぬまで宗仁を臣下にさせろという要求。はい可愛い。

朱璃は断ります。そんな朱璃を奏海は挑発します。ここでエルザに朱璃の正体がばれるとアウトなので宗仁が折れます。

これはただ挑発しただけだったのだと思います。利害のために臣下を売ることはしないと言い切った朱璃の姿に主としての覚悟を見た...と思います。

 

なお、後日奏海の失言が元でエルザに朱璃の正体がバレます。ちょろいぞ奏海ちゃん。

何はともあれ、宗仁は奏海の臣下となりました。

 

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可愛い。

 

ちなみにこれは海でのシーンです。水着のためだけに林間学校があったように思います(画像は水着ではないですが)。スク水がいないの良いですね。恨みがあるわけではありませんが、とりあえずスク水みたいな風潮ほんと好きじゃないです。

 

さて、竜胆作戦に話を戻します。

決起前日、最後のミーティングをします。どちらもお互いが裏切ると分かった上での表面上の会議。このタイミングで宗仁は朱璃に返され、前項目で書いた通り、エルザの忠義を対象を聞くことになります。

 

そして決起当日。

本国へ帰国していたはずのウォーレンが待機しており、エルザが取り下げた夜鴉町への空爆を強行します。エルザがこれから夜鴉町に向かう(命をかけても)と告げてもウォーレンは空爆を止めません。

 

さあここからがエルザの見せ場です。大量の民間人を巻き込む空爆は「自分の中の最低限の高潔さ」では容認しえないものでした。

エルザは軍服に付いている徽章を引きちぎり、これは明確な反逆行為であると宣言した上で、賛同する部下を引き連れ民間人の救出に向かいます。

「人的被害は最小限に食い止めた。共和国への忠誠は夜鴉町で燃え尽きたわ」

これは格好いい、こんなん痺れます。

 

宗仁側は小此木と対面しますが、小此木が実は良いやつだったということが明かされます。今までの小此木の演技が堂に入り過ぎてて2週目は逆に面白いです。

小此木の命を狙った朱璃が、顔出して登校なんて迂闊すぎることをしても無事だったのはそのため。

 

この後、ロシェル率いる共和国軍になすすべなく敗走します。戦闘の緊迫感はとても書けないので伝わらないのは残念ですね。

 

「天京に来てから半年。いろいろなものを置き去りにして、私は伊瀬野に戻る」

竜胆作戦は失敗以外の何物でもありませんでした。仲間の多くは死に、今までの生活も全て捨て去り、命からがら撤退します。

 

 

・禍魄の話

共和国作ったのも禍魄みたいですね。全ての黒幕というわけです。ここまで大きくされると少し萎えます。正直禍魄に対してミツルギのスペック低すぎだと思います。

 

エルザ視点の時、ロシェルと雪花が一緒に登場していました。そして別視点でロシェルと雪花が一緒にいるシーンでは、雪花だけ見えてロシェルは隠れていました。これはミスリードに違いない!と踏んでたのですがそんなことは全くありませんでした。擬態の能力もこの時点では使えないのに姿を隠してた理由がまるでわかりません。

 

伏線は結構張ってましたね。ロシェルとの初回遭遇時からあの口笛吹いてましたし、2人の仲の良さをいちいち喜んでいました。朱璃の誘拐についても伏線がありました。「2人の仲を良くするお手伝いをしたいです。西の国のお伽噺では、よく、悪い魔女が美しいお姫様を...」なんて言ってました。

 

禍魄が吹いていた口笛は第2オープニングの曲です。この曲はもともと緋彌之命がミツルギによく聞かせていた歌です。子守歌とも称されていました……この曲調で子守歌だと!?!?

 

 余談ですが、緋彌之命が禍魄に余計なことを言わなければただの連続殺人犯レベルで済んでいたのではないかなんて邪推してしまいます。

 

個人的な好みを言うと、人の死に様に美を感じるような絶対悪よりも、反乱を起こさせたのが緋彌之命に美しいと言わせるための脅しであった、みたいな展開の方が好きです。

 

 

・古杜音の見せ場

古杜音はやはり奥伊瀬野での防衛戦が良かったですね。

 

「伊瀬野にて御剣を研がれませ」

小此木の言葉は比喩だと思っていた。だがこれがもしそのままの意味だとしたら。

 

「さあ朱璃様、御照覧くださいませ」

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斎巫女は、命を捧げることで、ミツルギと一体化し永遠に添い遂げることができる。終わりのないミツルギの孤独を癒すことができる。それ故のミツルギの花嫁。

そして宗仁は心刀合一の境地に立つ。

 

このあとの刻庵戦の宗仁で少し笑ってしまったのですが、

刻庵が驟雨(ほぼ同時に3箇所の急所を貫く必中必殺の大技)を放ちます。宗仁はそれを「だがそれは後に太祖と呼ばれる男に俺が伝えた剣技」とかいって見切ります。

一言いいですか。

こいつイキリじゃねぇ???

いや、ちゃんと強いからいいんですけどそう思ってしまったんです。すみません。

どうでもいいけど、驟雨って燕返しだよね。次元屈折現象は起きてないけどさ。

あとこのあと出てくる天御柱は完全にフェアリーロウでした。

 

古杜音に話を戻します。

雪花に追い込まれ、呪術ももう使えない状況でもシーンです。

「呪術でも勉学でも、みんな五十鈴の方が上だった。それでも、斎巫女は、この椎葉古杜音以外の誰でもありません」

そして純粋な祈りだけで、大御神に声を届ける。それこそが原初呪術。

格好良い古杜音は良いですね。

斎巫女の素養は人を愛する才。そんな古杜音だからこそミツルギの花嫁となれるし大御神に声が届くわけですね。

 

 

・雪花の話
呪術には代償が伴います。良いことが起きた分だけ悪いことが起きます。これを因果の相殺率と呼び、生まれる反作用のことを因果の歪みと呼びます。現在使われている魔術はこの因果のひずみを別世界に送り込むことで恩恵だけを受けています。この別世界というのが雪花の一族が信仰する黒主大神の住まう世界、根の国です。

つまり、雪花の話は皇国が国を守っていることの裏返しだったわけです。戦争に勝つことで成立した皇国は、共和国と同じように、自国の繁栄のために根の国を犠牲にしました。八岐家は戦争に負けた側の司祭であり、侵略者の信奉する大御神を讃えなければならなくなりました。その上、一族が信仰してきた黒主大神の存在を否定され、因果の歪みという呪術のゴミを根の国に押し付けられました。
雪花はそれを敗者の定めと捉えています。弱者は強者に絞り尽くされるのが必定であれば、共和国に属し皇国を潰すだけという考えの下、復讐をします。

 

最後、雪花は古杜音に赦されるわけですが、黒主大神を祭る神殿も作られ、報われて良かったと思います。

 

 

 ・最終戦

ミツルギと緋彌之命、宗仁と朱璃どちらに運命を託すか。ここの部分は正直好みじゃないですね。

エロゲとしては正しい展開な気がしますが、シリアスものでクライマックスに恋愛感情持ち出されると、愛のよく分からない力で敵を倒す展開になりがちなので。
とはいえ今回は心刀合一を上手く使ってたと思います。

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対して奉刀会と共和国側の戦闘は良かったです。特に空爆要請が良かったです。今までの話で見えてる攻撃手段なので熱い展開でした。
あと、奏海の誓願は正直意味わからないです。歴代皇帝は呪術なんて使えないし、千波矢を始めとした巫女にしたって根の国に埋もれてるはずなのでは...。
終戦で奏海に見せ場を作ろうとしたんでしょうね。
こんなこと言ってますが、1周目は雰囲気に飲まれて熱いシーンだと思ってました。 
 
黒主大神への対処は良かったです。こうゆう作品ではやっぱり神は絶対者じゃないといけないと思います。禍魄の処理も綺麗な終わり方でした。

 

 

・桃の花びら

 

散る、

はらはらと、

桃の花弁が、ひとつ、ふたつ。

嗚呼、愛しき君よ。

あなたは、なぜ涙を捨ててまで戦い続けなくてはならないのでしょう。

否、否、理由は承知しております。

ただ、最後の逢瀬に涙の一つを零すことも許さぬ、その激しさと悲しさに私は嘆くのです。

そして何より、あなたの強さを誇りに思うのです。

 

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作中、何度か登場する桃の花びら。

これは桃花染の涙。朱璃がもう零さないと決めたもの。

そして、緋彌之命が涙を捨てた証。

 

より正しい選択はなかったのか。もっと多くの人命を救えなかったのか。言葉を以てわかり会えたかもしれない反逆者を武をもって征する。力を持たねば平和はないのはわかっている。だからこそミツルギを使い皇国を作り上げた。そんな皇帝には戦争を嘆く資格も、涙を流す資格もない。なのにどうしてこんなにも溢れてくるのか。皇帝には涙など、無様な涙など必要ない。

 

桃花染の涙とは、数多の屍の上に立つ皇帝の悲しい奇跡。


メインルートの最後は、朱璃が一人で泣くシーンです。

皇国再興に目処が立ち、天京が桃花染祭で賑わっているのを陵墓から見下ろします。

 

「これがあなたの守った景色だよ。だからもう泣いても良いよね。会いたいよ、宗仁」

 

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その時、賑わう天京に桃の花びらが雪のように降る。

ある人は、雅な光景に感嘆する。

ある人は、大御神の祝福と思い感謝する。

 

その実、天京に降り積もる桃の花びらは、朱璃が一人の少女として流す涙。

皇帝として自らを律し続けた朱璃が、ふと宗仁を思い出し、堰を切ったように溢れ出す桃花染の涙。

 

一晩中泣き晴らし、涙も枯れ果て、皇帝として迷い無く生きていくと決心する朱璃の前に、待ち望んだ人が姿を見せます。


散る、

はらはらと、

桃の花弁が、ひとつ、ふたつ。

嗚呼、愛しき君よ。

零れた涙は、一つ残らず愚臣が拾い集めましょう。

衆目に晒すには、あまりに貴き花故に。

 

綺麗なエンドでしたね。最後まで魅せてくれる作品でした。

ちなみに奏海と滸√は中々に茶番でした。古杜音とエルザ√もそこまでな話でした。詰まるところメインストーリー極振りだったわけですが、そこが良かったので非常に楽しめました。

 

 

終わりに。

 

千桃をプレイして、穢翼のユースティアを思い出してしまいました。

エルザと宗仁の忠義問答の中の一節。

「人が命をかけてぶつかり合う戦場で何のために戦うのかわからない。それは何のために死ぬのかがわからないということだ。君は軍人として迷いなく戦えているか?」

 

呪壁を守れなかった古杜音を励ます宗仁。

「俺には刀がある。お前には何がある?」

 

どちらも人の本質を突くような質問ですね。これを見て思い出してしまったのが次のセリフ。

キャラ名は一応伏せ字にしていますが、多少ネタバレです。お気をつけください。

 

 

「時には理想、時には理屈、時には感情……コロコロと主張を変え、それなりの正論を吐きながら、生きていく。お前は頭がいいし、発言や判断は妥当なことが多い。だから、誰もお前の行動を責めないだろう。

だが、それだけだ。

(中略)

お前には中身がないのだよ

◯◯◯、お前......何のために生まれてきたんだ?」

 

このキャラの心を抉りにくる感じ。これを思い出してしまったのでヒヤッとしてしまいました。

共感される方がいらっしゃったらなぁという思いです。

 

 

さてさて、長かったこの記事もとうとうお終いです。普段以上に読みづらい文章だったと思います。すみません。

最後までお読みいただきありがとうございます。それでは。